其の二 雪山にて


「はっ!!しまった。ホットドリンクを忘れてきた」
 曹操一行から逃げるようにしてクエストに出発してきた関羽は慌てて準備をしたこともあり、うっかりとホットドリンクを忘れてきていた。
 しかも雪山に入り寒くていざ飲もうとした時、そのことにようやく気が付いた。
「うーむ、支給品を取りに帰るのも億劫だしなぁ。星、ホットドリンク余ってたら分けてもらえないか」
 寒さで震えながら言った関羽に、趙雲は両腕を大きく広げてみせた。
「星、ホットドリンクをくれないか」
 意味を理解してもらえてないと思った関羽はもう一度問うてみた。
「そんなものは必要なかろう。私の胸に来るといい。寒い時は人肌が一番温まるぞ」
「……いや、結構。鈴々、ホットドリンクを分けてもらえないか」
 趙雲を諦めた関羽は張飛に頼むため振り返ると、彼女もまた両腕を広げ同じポーズをしていた。
「寒いなら鈴々が温めてあげるのだ」
「…………」
 寒さと心労でスタミナが一気に減少する関羽であった。




「ドドブランゴの奴、足を引きずり出したな。鈴々、しびれ罠を!」
 関羽の呼びかけに、張飛はすばやく反応し指示通り従う。
「うんしょ、こらしょ。しびれ罠はったのだー」
 関羽は上手くドドブランゴをおびき寄せ、しびれ罠にはめた。ドドブランゴはビリビリとしびれて動けない状態になっている。
「星、麻酔玉を投げてくれ!」
 しかし趙雲から麻酔玉が投げられてくる気配はなかった。
「星、どうしたんだ?……はにゃ!!」
 麻酔玉が投げられてこないことに訝しく思い、趙雲の方を振り返った瞬間、見事に顔面にそれが直撃し関羽は奇声を発した。
「ちょっと星、何をする。私ではなくドドブランゴに……へにゃ!!」
 更に二撃目が関羽の顔面にヒットする。
「うむ、なかなか麻酔が効かないものだなぁ」
 腕を組みぽつりと呟く趙雲に関羽はがっくりと肩を落とした。そこへ追い打ちをかけるように三撃目が後頭部に当たり、
「ほにゃ!!」
 と、再び奇声を上げてしまう関羽。振り返ると今度は張飛が麻酔玉を投げていた。
「鈴々、グッジョブ!」
 趙雲は親指を立てて言い、そして更に言葉を続ける。
「うーむ、まだこれでも効かぬか」
「こら!二人とも。私はモンスターじゃないんだぞ。それに罠にはまってない状態ではいくら当てても麻酔は効かぬぞ」
「ふむ、そうだったな。では一話目で子供達に落とし穴にはめられている時使えば良かったのだな」
「いや、それはだな……。あう〜」
 恥ずかしい状況を思い出し関羽は返す言葉をなくした。
「鈴々があの時麻酔玉を投げればよかったのだ。うーん、惜しいことをしたのだ」
 張飛は今更ながら後悔していた。
「っていうか私を捕獲してどうする!」
「どうするなんて、そんなもの決まっておるではないか。なぁ、鈴々」
「そうなのだー。決まっているのだー」
「……はぁ」
 心労の絶えない関羽はため息をもらした。そして、ふと気が付いた。
「ん?私は何をしていたんだったっけ?……はっ!!!!ドドブランゴ!!??」
 すでに罠から出てきていたドドブランゴが今まさにこちらに飛びかかってきていた。
「ヒィーーーーーーーーーーーー!!!!!」




目的を達成しました
あと1分で村に戻ります



「いや、危ないところだったな」
「一体誰のせいだか……」
 全く悪びれた様子のない趙雲に、関羽はすっかり呆れていた。
 結局麻酔玉は全部関羽にぶつけてしまいドドブランゴの捕獲を諦めて討伐することになった。
 最後は涼しい顔で趙雲がとどめを刺した。悪ふざけなどしなければ危ない目に遭うこともなく狩りができる腕前を持っているのに、趙雲はどうやらそれができないようだった。そして張飛までもが同じように真似てしまい更に道が逸れていく。
 もう集会所にしばらく来るのはよそう。関羽は密かにそう思った。
「ドドブランゴの素材を剥ぎ取るのだー」
 張飛はドドブランゴに剥ぎ取り用のナイフを突き立てた。
「おおっ、ドドブランゴの毛が取れたのだー」
 嬉しそうにその毛を関羽に見せびらかしながら張飛が言った。
「毛?」
 その言葉に趙雲が異様に反応を示したことに気づいた関羽は悪い予感がしてならなかった。
 妖しい目つきで近づいてくる趙雲に関羽は後ずさりをした。そして趙雲は剥ぎ取り用のナイフを腰から抜いた。
「な、なんのつもりだ。星?」
「ふふふ、毛を剥ぎ取るつもりだ」
「毛ってドドブランゴはあっちだぞ」
 張飛が剥ぎ取りを行っている先を指差しながら言った関羽に、趙雲は更に不適な笑みを見せる。
「愛紗、お主の毛を剥ぎ取らせてもらうぞ」
「ちょっと待て。私の毛なんぞ剥ぎ取ったところで何にもならないぞ」
 髪を覆うように頭部を手で押さえながら関羽は言った。
「その毛ではない。こっちの方だ」
 趙雲はそう言いながら関羽の股の辺りを指差した。
「はいー!?こっちの毛??」
 慌てて関羽は股を隠すように手をやった。
「愛紗の下の毛は曹操の奴に高く売りつけてやれそうだからな」
「そうなのだー。曹操は愛紗のしっとりつやつやの下の毛を見たいって言ってたのだ」
 ドドブランゴの剥ぎ取りを終えた張飛が会話に加わってきた。
「い、いや、だからって、そんな……。私の毛、下の毛を剥ぎ取るなど馬鹿げたことを……」
 どんどん逃げ腰になっていく関羽に趙雲はじりじりとその間を詰めていく。
「ふむ、そうだなぁ。やはり愛紗を捕獲して、お主自身は私が頂くとして、それから下の毛だけを曹操にくれてやるとしよう。そうすれば愛紗は手に入るし、そしてお金も。ふふふふふ。まさに一石二鳥だな」
「ちょっと待つのだー!」
 関羽と趙雲の間に張飛が割って入ってきた。ほっとする関羽だがそれも束の間、
「鈴々は愛紗と寝床の中で契りを交わした仲なのだ。星だけに愛紗は渡さないのだ!」
 と、張飛の言葉に更に身の危険を感じることになる。
「ほう、ではお主とはライバルになるというわけだ」
「そうなるのだ」
「ではどちらが愛紗を先に頂くか勝負だ」
「望むところなのだ!」
 お互いの武器を構える二人を尻目に抜き足差し足と逃げていく関羽であった。


クエスト終了



 結局ドドブランゴは倒せたものの関羽は剥ぎ取りすらできずに終わってしまった。
 けれどもひとまずの身の安全を確保できた、それだけで充分だと感じていた。




其の三へ 続く


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