其の一 集会所にて
「ここが集会所か」
「愛紗ー!」
初めて訪れた集会所内を見渡していた関羽に一人の少女が笑顔で駆け寄ってきた。
「鈴々ではないか」
「愛紗も狩りに行くのか?」
「いや、今日は集会所がどんなものか見に来ただけで……」
関羽は途中で言葉を詰まらせた。張飛の表情を見てしまったからだ。さっき関羽を見つけて駆け寄ってきた時の笑顔はどこへやら、今は肩を落としてしょんぼりしている。関羽はその理由にすぐさま気が付いた。
「ううむ、せっかくここで鈴々と会えたことだしな。一緒に狩りに行ってみるか?」
関羽の思惑通り、張飛の顔は一変しこの世の春という程の笑顔になった。
「うん、一緒に狩りに行くのだー!」
元気よく返事をする張飛に思わず関羽にも笑みが移る。
「ところで鈴々、何か行きたいクエストとかあるのか?」
うーん、と考えるのも束の間、
「特にないのだ。愛紗と一緒なら何でもいいのだ」
と、答える張飛に関羽は苦笑いを浮かべる。
「そっか、特にないか。そうだなぁ、初めての集会所だしあまり難し過ぎるのは控えておこう。では雪山のドドブランゴ一頭の狩猟あたりにでも行ってみようか」
「うん、行ってみるのだー!」
関羽はクエストの登録を行いにカウンターへ向かった。その時にクエスト参加人数を4人にしていた。他に誰か誘ってみてもいいと思ったからだ。
「よし、これで登録完了だ」
「では鈴々はボードで登録してくるのだ」
クエストボードへと走っていく張飛の後ろ姿を見送った関羽は何気なく側にあった長椅子に腰を下ろした。
「お帰りなさいませ、ご主人様。ご注文は何に致しますか?」
突然声をかけられて驚いた関羽が周りを見渡すと、どうやらそこは集会所内の一角に設けられた酒場コーナーのようであった。酔ってくだを巻いている者や、長椅子に寝転んでいる者までがいた。
「あ、すいません。そういうつもりで座ったわけではなく……って星ではないか!お主、こんなところで何をしておる?」
星こと趙雲はメイド姿であった。
「うむ、ここでちょっとバイトをな」
「バイト?」
「ついつい防具とかを作りすぎてしまってコレが乏しくなってしまったのだ」
人差し指と親指で趙雲は円を作って見せた。
「お金ならバイトなどせずに狩りに行って稼げばよかろうに」
「うむ、そうだが折角作った防具を披露するには狩りよりもここの方がいいと思ってな」
「……って、もしかしてそのメイド服自前か!?」
「ふふふ、素材を集めるのに実に苦労したぞ」
大きくため息を漏らす関羽には見向きもせず趙雲は続ける。
「ビストロも作ったぞ。キッチンアイルーとお揃いでこっちもいいぞ。今度見せてやろう」
すでに返答する気力を失っている関羽の元へ登録を終えた張飛が帰ってきた。
「あっ星だ。鈴々はこれから愛紗と狩りに行ってくるのだ。星は一緒に行かないのか?」
「狩りか……若いおなご狩りなら喜んで勤しむのだがな」
ちらっと関羽の方を見た趙雲は、
「そう愛紗のようなおなごならばな」
と、付け加えた。
「へ?わ、私??わ、わ、私なんかを狩ってどうするつもりだ?」
わさわさと手を慌ただしく動かし、動揺を隠せない関羽に趙雲はにやりと笑う。
「おなごを狩って何をするかと言えば決まっているではないか。なぁ、鈴々」
「そうなのだ。決まっているのだ」
意味がはっきりと分かっているのか分からないのか、それでも力強く張飛は相づちを打っている。
明らかに趙雲の影響で張飛までもがこんな調子になってきていることに、関羽は嘆いていた。このままでは趙雲のようになってしまうのではと張飛の未来を危惧していた。
「では、私も狩りに参加しようかな」
散々関羽で遊び満足した表情の趙雲が言った。
「バイトはいいのか?」
「まぁ、よかろう。バイトよりも狩りの方がコレの稼ぎがよかろうし」
再び趙雲は指で円を作っていた。
「それに何より楽しそうだしな」
そう言った趙雲に関羽はまたも遊ばれてしまうような予感がして冷や汗が背中を伝った。
「ではこれで三人か。後一人参加することができるが……」
「では四人揃ったことだし、狩りへ出発するわよ、関羽。パァ〜パァ〜」
「は?もう出発??ま、まだ準備ができてない!」
あたふたと一人だけ慌てている関羽を四人目だと名乗った曹操が嬉しそうに見つめていた。
「華琳様、勝手に他の人のクエストに参加しようとなさらないで下さい」
呆れ顔の夏候惇が言った。
「我々とアカムトルムを狩りに行くのでしょう」
更に夏候淵が続く。
「そうだったわね。残念ね、関羽。あなたとは一緒にいけないわ。名残惜しいけれども」
そう言いながら曹操は関羽の手を握って放さない。
「いや、私は曹操殿をお誘いした憶えはないのだが……」
そもそも趙雲がいるのに、この曹操までもが一緒なら自分が本当に狩られてしまいそうで恐ろしい。
不意に背後から殺気を感じ振り返ると、まるで闇から目を光らせハンターを狙うナルガクルガを思い起こさせるような荀或がいた。
彼女からはある意味本当に狩られてしまうのではと関羽は頭を抱えた。