観念性サイコパス  第二話 恋人が欲しい




 ここはシビュラシステムが統治する日本。
 日々、シビュラの顔色を窺いストレスケアに努めなければドミネーターでぶちのめされる物騒な国。
 そんな国にも束の間の安らぎを味わえる一軒のスナックが存在した。



 スナック『璃彩』



 いつものようにカウンターに座り志恩は酒を嗜んでいた。
 カランカラン。
「あ……いらっしゃい……」
 普段は愛想のいい当店のママ璃彩だが来客に歯切れの悪い挨拶をする。
 来客は志恩の傍に立つ。
「あらぁ、あなたも来ていたの?」
 志恩が振り向くと、そこには滝崎リナが見下ろすように立っていた。
「あらぁ、来ているわよ。毎日。悪かったかしら?」
 志恩は立ち上がり目線を同等にする。
 すでに火花が散り始めているのが璃彩には見えた。
 カーン!!とゴングの音が鳴った……のが聞こえた気がする。
「ねぇ、あなた。白衣でスナックに来るって恥ずかしくないの?」
 リナの先制パンチ。
「残念ね。それはすでに前回で終わったネタよ」
 志恩、華麗に回避する。
「あなたも人のこと言えるのかしら?その服のセンスも如何なものかと思うわよ。 少女趣味全開みたいなピンク色で鳥をイメージしたような衣装って。ご丁寧に袖に羽まで付けちゃって。 へんてこなフードといい。大概じゃない?」
 志恩、カウンター攻撃。更に手を緩めず続ける。
「髪に付けているのは……赤い羽根募金かしら?」
「そう、右と左で二口募金したわ……って違うわよ!!羽の形の髪飾りです」
 両者睨み合いまだまだ攻撃を繰り広げる。
「いい年してド金髪にしている人に服のセンスとかとやかく言われたくないわね。もうすぐ、みそ……」
「うるさい!!」
 リナ、クリーンヒットを放つ。だが志恩も負けてはいない。
「髪のことまで言っちゃうんだぁ。じゃあこちらからも言わせて貰うけど、青い髪っていうのもどうなの? 少しほんの少し私より若いか知らないけど青髪オンザでアシメヘアってセンスいいのかしら?」
 志恩はふふっと小馬鹿にしたように鼻で笑い、言葉を付け足す。
「その衣装と髪型からして、あなたのやっている音楽ってコミックバンドなんでしょ?」
 ぎっとリナの目つきが一層厳しくなる。一方の志恩は余裕の笑みを浮かべていた。
 志恩、優勢勝ち。
「あの、二人とも……そのへんで……」
 いつの間にか来店し二人の言い争いを後ろからしどろもどろ見ていた弥生が恐る恐る声を掛ける。
「あら、弥生ぃ〜」
 志恩とリナが言い争っていた時とは違い甘い声を出して名前を呼びいい笑顔をして振り返る。見事なまでのハモリ。 仲が悪いくせに妙に息が合う。 それが気に食わなかったのか二人は再び睨み合う。
 女って怖い、と弥生は思う。 だけれども、それでも女が大好きな弥生であった。
「女同士で争い合うなんて醜くて見ていられませんわ」
 さり気なく颯爽と現れたのは王陵璃華子だ。一番年下だというのにその立ち振る舞いは実に優雅である。
「女同士なら美しく愛し合うべきだと思うわ。ねぇ、璃彩さん」
「ええ、そうね。璃華子ちゃん」
 視線を絡ませ見つめ合う璃彩と璃華子。ただならぬ雰囲気に店内は騒めく。
「ちょっとちょっと、ママ。どういうこと?」
 志恩の驚いた声に璃彩はにんまり微笑んで返す。
「えっ!?ママって確か執行官の神月くんと付き合ってたんじゃなかったの?」
 志恩は目を丸くして璃彩に訊く。
「それは昔の話よ」
「もしかして神月くんをドミネーターで撃ったのって……」
 邪魔になったから、という言葉を志恩は飲み込んだ。
「そうよ」
 だが璃彩はあっさりと認める。そして理由を付け加えた。
「だって璃華子ちゃんって凄いんだもん」
 両頬を両手で押さえ顔を赤らめながら璃彩は乙女の顔をする。志恩は驚き口をあんぐりと開けてしまう。
 ふふふと微笑み自信満々に璃華子は言う。
「伊達に数百人の女の子たちと寝ていないわよ」 (※深見真著「PSYCHO-PASS上」参照)
「ちょーっと待って。別に数だけが全てじゃないでしょ」
 リナが話に割り込んでくる。
「ねー、弥生。私たちだって心も体もどろどろに溶け合うくらい愛し合ったよね。 久しぶりに再会してお互いの姿が違っても指の使い方や感覚だけで相手が分かっちゃうくらいだし。 弥生ってば私の声を聞いただけで感じちゃうのよね」  (※吉上亮著「About a Girl」参照)
 リナが思い出すようにうっとりと弥生を見つめる。 弥生も同じような表情をし、今からでもおっぱじめてしまいそうな雰囲気に志恩は大きな声を出し打ち消す。
「私だってね!」
 そこにいた一同が志恩に注目する。璃彩、璃華子、弥生、リナ、ボックス席の黒い影。
「私だって、えっと……あの……あれ?私は……?」 (※特出な参照資料がありません)
 志恩は灰になってしまいそうなくらい呆然とする。
「私……うん、ちょっと修行してくるわ」
 志恩は踵を返しふらふらとした足取りで店を出て行った。
「志恩、修行って一体どこで何をするつもりなの!?」
 慌てふためき志恩を追う弥生。
「あっ、待ってよ。弥生」
 更にリナがそれを追いかけていく。
「志恩!勘定がまだよ。うちはツケお断りなんだから。後の二人も何か飲んでから帰ってよ!!」
 璃彩の叫びはすでに三人とも店外に出て行ったため届かなかった。
「全く。何しに来たのかしら。あの三人」
「さぁ、コントじゃないの」
「今度からツケとコントはお断りって張り紙しておこうかしら」
 璃彩はふうっとため息を吐く。
「じゃあ、私、先に帰って待っていますね」
「ええ。なるべく早く帰るようにするわ」
 璃華子が店を出ると、ずっと羨ましそうに薄暗いボックス席から眺めていた黒い影こと美佳が静まり返ったカウンター席にやってきた。
「ねぇ、ママ。どうしたら恋人って出来るんですか?」
「どうって難しい質問ね。タイミングとかかしら?」
「聞いて下さいよ、ママ。私が好きになる人に限って、もう別に好きな人がいるんです」
 酒をぐびぐび煽り美佳は愚痴を続ける。
「高校の時に好きだった子は、すでに幼馴染の子と相性診断で恋愛推奨判定が出るくらい仲良しで  (※深見真著「PSYCHO-PASS上」参照)……いや、失恋の参照は別にいらないから」
 美佳は誰にともなくツッコミを入れる。
「今だって弥生さんは……どっちが好きなのか知らないけど 二人も恋人がいるし。どうせなら三人目にしてくれたらいいんだけど、見向きもしてくれないし」
 あっ、分かってるんだ。璃彩は心の中で呟く。
「はー、恋人って一体どうやったら出来るんだろう」
「そうねぇ。他に誰かいいなって思う人はいないの?」
 美佳は酒を飲みながら、うーんと唸り声を上げる。
「朱ちゃんなんてどうなの?」
「あー、ナイナイ」
 大仰に首を横に振り美佳は露骨に厭な顔をする。
「あのヘルメットヘアとはそりが合わないっていうか。そんな気持ち微塵も湧きませんね」
「そう。うーん、もう女性キャラも残り少なくなってるから難しいわねぇ。……あっ!」
 ぽんっと手を叩いて璃彩は閃いた人物を挙げる。
「局長!」
「ねぇ、なんで?どうしてそうなるの?ありえないでしょ。せめてママの後輩の酒々井監視官とか言って下さいよ」
「いや、ほら、あの子はこっち側の素質がなさそうだし」
「局長にはあるっていうんですか?」
「まぁ、脳みそが変わったらあるんじゃない」
「もし男の脳みそだったらそれ百合って言えるんですか?」
「さぁ、どうかしら」
「ねぇママ。早く帰りたいからって私のこと適当にあしらっているんでしょ」
「そんなことは……ないこともないこともないかしら」
 はぐらかす璃彩。
「別にいいですよ。ママ、恋人が待っているんですもんね」
 美佳は勢いよくグラスの酒を飲み干した。
「おかわり下さい」
「いや、分かってるなら早く帰ってよ」
「嫌がらせです」
 そんな性格だから恋人が出来ないのよ。心の中で璃彩は皮肉っていた。



 ひとり寂しい人も
 二人でいちゃいちゃしているカップルも
 三角関係でもめている恋人たちも、等しく今日も夜は更けていく……。




つづく……かも?
 







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 スナック回続きましたが、今回も残念ながら歌はありません。(笑)
 本家実ミリでもスナック回が三度あったので後一話くらいネタが思い付いたら書きたいと思っています。



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