宿敵




 弥生は敵を見つけて凝視していた。
 幸いなことに敵はまだこちらの存在に気が付いていないようだった。
 今、弥生の手元にはドミネーターが存在していない。
 いや、たとえドミネーターを所持していようともヤツの犯罪係数を測定することは不可能だ。 ヤツはドミネーターで裁くことが出来ないのだ。
 だが丸腰でヤツを相手には戦えない。
 武器を取りに行きたいが目を離すとその隙にヤツが行方を眩ましてしまうかもしれない。ここで取り逃がすと後々厄介だ。
 こっそりと武器を取りに行くべきか。
 ひっそりと増援を待つべきか。
 武器を取りに行くとヤツに気付かれて逃げられるかもしれない。 しかしだからといって増援を待っているとその間に逃げてしまうかもしれない。
 なんにせよこのままじっとしているわけにはいかない。
 緊張感で弥生の背中に冷や汗が伝う。
 やはりひとりで対峙するにはヤツは手強過ぎるから増援を呼ぼう。
 そう思い弥生が動いた瞬間、ヤツがこちらの存在に気が付いてしまった。
 だが逃げるどころかヤツはなにを血迷ったか弥生に向かって突進してきた。
 恐怖で弥生の体が強張る。
「きゃー!!こないでー!!」
 弥生はその場にしゃがみ込み頭を抱えてうずくまった。
 スパーン!!
「なにしてるの、弥生?」
 弥生が顔を上げると、右手にスリッパを持った志恩がヤツを一撃で仕留めていた。
「あっ……」
「へー、意外。弥生ったらこういうの苦手だったのね」
 床でぺしゃんこにひしゃげたヤツを志恩が右手に持ったままのスリッパで指すが、弥生は見ることすら厭だったので目を逸らした。
 んんっと咳払いして弥生は何事もなかったかのように立ち上がる。
 その様子をにやにや笑いながら志恩は眺めていた。
「だって気持ち悪いでしょ」
 黒光りしたあの姿を思い出すだけで弥生の背筋がぞっとした。
「まぁ、決していいものではないわね」
「どうして動物や植物は減少していっているのにコイツだけはいなくならないのかしら?」
「生命力と繁殖力が強いからでしょ。人間の髪やフケでも食べるみたいよ。相当な雑食ね。 水気さえあれば生きられるみたいだし。食糧危機になることなんてなさそうね」
 人間が絶滅しても生きていそうだとすら思えてくる。
 弥生の口からため息が漏れた。
「シビュラシステムでもこれだけはどうしようも出来ないのね。G専用ドミネーターとか開発して欲しいわ。 デコンポーザーで簡単に消滅させられるとか」
「そうよね、エリミネーターだと悲惨ね。後片付けが大変だわ」
「お願いだから、志恩。気持ち悪いこと想像させないで」
「うふふ、でも私は案外嫌いではないわ」
「えっ!?」
 ありえない、と弥生は思う。あんな気持ちの悪いものが嫌いではないなんて。
「だって弥生の可愛い姿が見られるんだもの」
「………」
「弥生が叫ぶ姿なんて貴重よ。『きゃー』よ。あんな可愛い声、初めて聞いたわ」
 嬉しそうに話す志恩に、弥生は恥ずかしさを堪えていた。
 やはりGは絶滅すべきだと改めて思う弥生であった。


おしまい
 







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 G専用ドミネーター誰か本当に開発して下さい。(笑)

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