志恩と弥生を取り巻くエトセトラ
〜 In the case of 常守朱 〜
「私、ラボに行ってきます。そろそろ依頼していた解析が終わってると思うので。
ここを離れてる間、皆さんよろしくお願いします」
オフィスでデスクワークをこなしていた常守が立ち上がり、そこで従事している同僚たちに声を掛けた。
「あーっと、ちょっと待った。今はまずいぞ、常守監視官」
オフィスを後にしようとしていた常守を狡噛が呼び止めた。
「まずい?」
狡噛の言葉の意図が全く掴めず常守は訊き返す。
「いや、そのだな……。今は六合塚が、そっちに行っている」
「はぁ、六合塚さんが。で、どうしてまずいんですか?」
「六合塚と唐之杜は、ほら、あれだ……その……」
歯切れの悪い狡噛の物言いに、常守は益々『まずい』の意味が分からない。
「今は二人仲良くランチしてるとこっすよ」
さすがに見かねた縢が二人の会話に割り込んできた。
「あー、お昼時でしたね、今」
チラッと時計を確認した常守は納得はしたものの微妙な気持ちになる。
『まずい』のは私がランチに混ざるとご飯がまずくなる、と言うことだったのだろうか。
「では、もう少し待ってからの方がいいですね」
「……もう少し」
狡噛は不安そうに呟いた。
「うーん、15分くらい後にします」
「ダメだ!早すぎる」
「え?早いですか?どうせ六合塚さんはカップ麺啜るくらいじゃ」
「そんなに早いと、まだ途中だ」
「途中?」
カップ麺を食べている途中?
15分以上も掛かって食べるカップ麺。カップの直径1mくらいあるのだろうか。
異常に作るのに時間が掛かるカップ麺。麺が固すぎて長時間お湯に漬けておく必要があるのだろうか。
六合塚の目の前に次々と空になっていくカップ麺。六合塚さんってそんなに食欲旺盛だっただろうか。
常守はカップ麺に時間が掛かってしまうケースを様々に想像してみる。
「クニっちとセンセーは一緒の時だとゆっくりランチするんだよねぇ。
女子二人だし、食後にまったりスイーツタイムとかね。仕事が暇な時くらいリラックスしたいっしょ。
あの二人、すっごく気が合うみたいだしさ」
再び縢がフォローに入る。
「なるほど、そういうことだったんですね」
常守は微妙に残念な気持ちだった。なんだカップ麺は普通だったのか……。
(´・ω・`)ショボーン
だが気の合う者同士だけで喋り合いたい気持ちは常守にもよく分かる。
仲の良い同級生同士だと時間を忘れて喋り合うことも度々あった。
「六合塚さんが戻ってからラボに向かいます」
「あぁ、それがいい。一番安全だ」
安全?こういう時は賢明、の方が言葉的に適切ではないのだろうか。
常守は疑問に思ったが、今日は狡噛との意思疎通が上手く行かない気がして問いただす気にはならなかった。
カップ麺が残念で気力が削がれたせいかもしれない。
「コウちゃん、もっと上手く言わなきゃダメっしょー」
常守には聞こえないように小声で狡噛の脇腹を肘で突きながら縢が言う。
「がっはっはー。若いってのはいいなー」
一部始終を見ていた征陸は豪快に笑い飛ばした。
関わると色相が濁る、と心の中で呟きながら宜野座は一切聞いていない振りを貫いていた。
おしまい
最後まで目を通して頂きありがとうございます。
顔文字シリーズ(?)もこれにて終了です。
次は一回脱線してから、サイコパスの濃い百合話を書く予定です。