志恩と弥生を取り巻くエトセトラ
〜 In the case of 縢秀星 〜




「ったく、ギノさんはホント人使いが荒いんだから。自分で持っていきゃいいのに」
 愚痴をこぼし頭を掻きながら宜野座に頼まれた事件のデータが入った記憶媒体を握りながら、縢はラボへ向かっていた。
「ちゃーす」
 ラボの自動ドアが開く音と共に縢は声を掛け中に入る。
 ラボの主である唐之杜は、まるでその縢を迎えるかのごとく入り口に向かって立っていた。
「あら、シュウ君。いらっしゃい」
 唐之杜は笑顔を浮かべてはいるものの声のトーンがいつもより低いことに縢は気が付いた。
「今ようやく面倒な仕事が終わったとこなの。で、何か用?」
 肩が凝ってしんどい、と言わんばかりに首を左右に振りながら言う唐之杜は相変わらず不機嫌だ。
 さっさと渡して戻ろう。戻りたい。
「あぁ、これギノさんからの依頼で、解析して……」
 記憶媒体を渡そうと奥へ進んで、唐之杜が不機嫌な理由が縢には理解できた。
 ソファーで六合塚が小さな寝息を立てている。

  (ノ∀`) アチャー

 心の中で縢は叫んでいた。
 タイミングが悪かった。悪過ぎた。いや、真っ最中よりはまだよかったか。
「あるぇ?オレなんでここに来たんだっけ?あー、うっかり忘れちまった」
 寝ている六合塚を起こさないように小さめの声で縢は大根役者のように棒読みで言う。
後頭部を掻きながら更に言葉を続ける。
「そうすっよね。メンドーな仕事の後はゆっくりとリラックスして楽しみたいっすよね。 用事、思い出したらまた後で来まーす」
「ふふふ、物分りのいい子はお姉さん、好きよ」
 ウィンクして見せた唐之杜はすっかり上機嫌だ。
「じゃあ、失礼しまーす。……あっ、鍵はロックしておいた方がいいっすよ」
 ウィンクを仕返しながら縢は言った。
 ラボを後にしながら記憶媒体をいつ渡そうか縢は悩んでいた。 真っ最中を避けるには2、3時間後くらいが妥当だろうか。
「あっ!もしかしてギノさん、こうなるのが嫌でオレに用事押し付けたんじゃ!?あのワカメ眼鏡野郎め!!」



つづく








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