伝えたい伝えきれない想い
「ミレイユ・・・好き」
ミレイユの腕の中にいた私は、そっと呟いた。
「大好き」
もう一度、呟いた。
応答が何もなかったので身体を動かしてミレイユの顔を窺うと、眠っていた。
しばらくの間、私はミレイユの寝顔を見つめていた。
すると、今までの、夕叢霧香として私の記憶にある様々な出来事が脳裏を掠めていった。
日本で暮らしていた時のこと。自分が何者かが分からない恐怖に怯え、何をしてても、誰といても孤独を感じずにはいられなかった日々。
ミレイユと出会ったこと。一緒に暮らすようになり、共に仕事をし、お互いに過去を追い求め、その結果の突然の別れ。
クロエのこと。もうひとりの私だったクロエ。どうしても最期まで分かり合うことができなかった・・・。
短い期間の記憶しかないけれども、思い返せば胸が張り裂けそうに痛むことも数え切れないくらいあった。
けれど、今、ここにミレイユがいる。私と一緒にミレイユがいる。ただ、それだけのことが、私にとっては全てだった。
もし、ミレイユと出会っていなければ・・・。そう考えるだけで、足を掬われ暗闇に突き落とされるような恐怖に見舞われる。
例え運命に、誰かに、仕組まれた出会いであったとしても、ミレイユと引き合わせてくれたことを感謝したいくらいだった。
「大好き、ミレイユ」
再度私が呟くと、ミレイユは小さく呻き、眉をぴくりと動かした。けれど顔を見つめていても、瞼は開かれなかった。
私の言葉がミレイユの夢の中に届き、返事をしてくれたのかもしれない、などと思ってみたりする。
「好き、大好き」
もう一度、呟いてみた。
何度気持ちを口にしてみても、足りないくらいだった。むしろ、その度に更に想いが募っていく。愛し過ぎて切なくなる。
私は自分の想いを持て余していた。
どうすれば、この気持ちを伝えることができる?少しでも想いを届けることができる?
考えて答えが出るよりも、先に行動していた。
ミレイユの唇と私の唇が重なっていた。
昨夜のことを思い出した。ミレイユにいっぱいキスされたこと。そして、それ以上のことも・・・。
もしかすると、肌を合わせるということは想いを伝える手段のひとつなのかもしれない、と思った。
そんなことをぼんやりと考えていると、ちょっとしたいような気分になってきた。私にも性欲が存在していたんだということを、改めて思い知らされた。
けれど、眠っているミレイユを起こしてまでしたいとは思わない。いや、例え起きていたとしても、私から誘うということは恥ずかし過ぎてできそうにないけれども・・・。
私はミレイユの身体をぎゅっと抱き締めた。
こうして身体を重ねているだけでも充分に気持ちがよかった。一度くっついたら、もう離れたくないくらいに。
ミレイユの指に私の指を絡ませた。
ミレイユが手を握ってきたので起きたのかと思ったが、そうではなかった。まだ、瞼は閉ざされている。どうやら眠っている中での無意識の行動のようだった。それが何だか私には嬉しかった。
「ミレイユ、好き」
何度目かのこの言葉を呟いた時ミレイユが、ふふっと笑い目を開けた。眠っているとすっかり思い込んでいた私は、文字通り目を丸くした。
一体ミレイユはいつ目覚めていたのだろう?それとも端から眠っていなかったのだろうか?
もしかしてキスしたことも知っているのだろうか。そう思うと、羞恥が込み上げてきて体温が一気に上昇した。
動揺している私にミレイユは、そっと口付けをした。
「ねぇ、ミレイユ。いつから起きてたの?」
「・・・今よ。今、起きたところ」
意味ありげな微笑みを浮かべて、ミレイユは私を見ていた。
本当だろうか?
でも事実がどうであれ、今私が伝えたい言葉はたったひとつしかない。
「ミレイユ、大好きだよ」
完
最後まで目を通してくれた人。応援して下さった方。
本当にありがとうございました。
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予定を変更してしまいました。
前回予告したちょっと長い話(多分)は、そのうち書くかもしれません。
次は、時間をさかのぼってみようと思っています。