日常の始まり



 目が覚めると、身体のだるさとは裏腹に、この上もなく気分が良かった。
 部屋を見回すと、眩しいほどに朝日が射し込みキラキラと輝いて見えた。いつも見慣れた室内のはずなのに、真新しく変わったように見えた。実際、襲撃で荒らされた部屋を修繕したためでもあったのだろうが、昨日はそんな風に感じなかった。
 では、何が変わったのか。
 それは、あたしと霧香の関係、だろう。
 たかだ関係が変わるだけで、こうも世界が変わって見えるものなのだろうか、と不思議に感じた。
 時計を見ると、7時過ぎだった。まだ、3時間も眠っていない。
 傍らで眠る霧香に目を向けた。身体を丸めて、小さな寝息を立てて眠っている。
 夜のことを思い出し、愛おしくなってさらさらの漆黒の髪に触れてみた。額に掛かる髪を掻き揚げると、瞼が開き髪より少し色素の薄い茶色い瞳を覗かせた。
 あたしと目を合わせると霧香ははにかんだ様に微笑んだ。あたしも同じような微笑みを返していた。
 こんな風に微笑み合い、朝を迎えるのは初めてだった。これは明らかに、あたしと霧香の関係が変わった証拠なのだろう。



 寝付けなかった。
 こんなことは初めてだった。隣で寝ている霧香の気配を感じると、胸がざわざわとする。今まで何度となく同じベッドで眠ってきたけれど、こんな風になったことは一度もなかった。
 霧香とベッドを共にすることが久しぶりではあった。荘園での一件後、霧香はしばらく入院していたため、今日帰ってきたばかりだった。
 ベッドに入ってから、もう1時間は経過していただろう。
 あたしはずっと霧香に背を向ける態勢でいた。霧香の方を向くのが恐かったのだ。今、霧香の方を向けばあたしは欲望に忠実に行動してしまうだろう。
 何よりもあたしが恐れていることは、拒絶されることだった。
 拒絶されれば、もう共にいれなくなってしまうかもしれない。そうなることを思えば、このまま胸の鎮まるのを待って眠った方が賢明かもしれない。
 けれど、こんな気持ちに毎日なることを思えば、それも堪え難い。
 霧香が好意を抱いてくれていることは分かってはいたが、果たしてそれはあたしと同じものなのだろうか。
 「霧香、もう寝た?」
 もし霧香が何も答えなければ、このまま眠るつもりでいた。
 しばらく沈黙が続いた。自分の鼓動の音だけが聞こえていた。
 「・・・ううん」
 永遠とも思える静寂の後、霧香の小さな声があたしの耳に届いた。
 気配で霧香がまだ起きていることは察しが付いていた。もしかすると、霧香もあたしと同じ気持ちなのだろうか、と期待せずにはいられない。
 あたしは寝返りを打った。
 暗がりには目が慣れていたので、霧香の表情がはっきりと見えた。あたしをじっと見つめている。
 昼間にキスを交わしたことが脳裏によぎった。今、もう一度猛烈に霧香の唇を感じたかった。あの時霧香は拒まなかったのだから、だったら今も・・・。
 手を伸ばして霧香の頬に触れてみた。霧香は一瞬手の動きを目で追っただけで、またすぐに視線をあたしに戻した。
 頬から指を滑らせて、中指を唇に当てた。それでも、霧香の眼差しはたじろぐことがなかった。
 今度は身体を寄せて、唇で霧香の唇に触れた。軽く触れただけですぐに離し、霧香の反応を窺った。
 さっきまでと表情は変わっていない。拒絶の表情ではない。そう思い、勢い付いてもう一度唇を合わせた。
 今度は霧香の下唇に、軽く吸い付いた。そして、うっすらと開いている唇に舌を差し込み、口蓋をアーチに沿ってゆっくりとなぞった。何度も舌先でなぞりながら、手で霧香の髪を撫でたり掬ったりした。
 舌を霧香の舌の裏へ滑り込ませ、持ち上げるようにして舐めた。表面とは違いつるつるとした質感だった。
 ふと、霧香が何も反応してこないことに気が付いた。舌も絡めてこなければ、抱きついてもこない。
 あたしは慌てて唇を離した。すると、霧香は堅く目を閉ざしたまま硬直しているようだった。睫毛がふるふると震えている。
 血の気が一瞬にして引いていった。霧香は嫌なのに無理をしてあたしを受け入れようとしていたのだ。勝手に表情を読み違えてしまったらしい。
 もう、ここまでしてしまったのだから今更冗談では済ませられない。
 それでも無理強いをさせてしまったことを謝罪しようと口を開きかけた時、霧香の瞼がゆっくりと開いた。
 霧香はあたしの顔色を窺うような素振りをした。そして、不意に目を逸らせた。
 「ごめんね、ミレイユ」
 先に霧香に謝られてしまった。
 もう、あたしの中での霧香への欲情の気持ちは消え失せていた。霧香が水に流してくれるというのならば、今からおやすみを言えば、きっと眠れるだろう。きっと・・・。
 「その・・・あの・・・私、こういうの慣れてないから、だから、どうしたらいいのか・・・よく分からないの」
 霧香が懸命に言葉を探して気持ちを伝えようとしているのが伝わってきた。そのいじらしい姿に、堪らなく愛おしさが込み上げてくる。
 どうやらあたしは思い違いで無駄な懸念を抱いてしまったようだった。
 更に霧香は言葉を繋げた。
 「私じゃ、ミレイユは、満足してもらえないんじゃ・・・ないかな?」
 霧香は決してあたしと目を合わせようとしなかった。
 「霧香・・・」
 あたしは霧香を抱き締めた。
 不思議なことに、一度は完全に失せたはずの欲情が、もうすでに蘇っていた。しかも、さっき以上のものになって。
 セックスに戸惑いはあるものの、拒絶はないだろうことが、あたしの背中に回された手で分かった。
 ゆっくりと身体を動かし、あたしは霧香の上に重なった。薄い衣服を隔てて、霧香の体温が伝わってくる。
 ベッドに手を付き、霧香を見下ろした。戸惑い、緊張、不安、期待(もあればいいのだが)といった複雑な表情をしている霧香に微笑みかけ、軽く唇を合わせた。
 次に額にキスをした。そして、右の瞼、左の瞼、鼻先、両頬、顎、と顔中に唇で触れていった。
 それから、一旦身体を起こした。
 手を取って、霧香の身体も起こさせて、あたし達は向かい合って座った。
 高揚している気持ちを落ち着かせるために小さく息を吐き出し、あたしは身に付けていたものを全て脱ぎ捨てた。
 霧香は驚いて、視線を逸らせて俯いた。それから、あたしの顔に視線が戻り、ゆっくりと下降していった。
 今度はあたしが恥ずかしくて視線を逸らせた。霧香の視線を感じるだけで、あたしの身体は感じてきた。下半身が熱くなっていくのが自分でも分かる。
 霧香の手が伸びてきて、さらけ出されているあたしの乳房に触れた。軽く、そっと触れられただけで、その尖端が堅くなった。
 もっと触れて欲しい。そういう思いを込めて、霧香を見つめた。同じような熱のこもった視線で、霧香が見つめ返してくる。こんな情熱的な瞳をした霧香は初めて見た。
 ぎこちなくて慣れていないと分かる霧香の愛撫に、心も身体も感じた。けれど感じる以上に、もっと全身が霧香を感じたくて求めていた。
 しかしこのまま欲望を全てぶつけてしまっては初心者の霧香には荷が重くなってしまうだろう、と思えるほどの理性が残っていた。
 弄ぶ、というよりは持て余している感じで乳房に触れていた霧香の手を制止させた。そして、霧香の左手を両手で包み込むように握った。
 可愛らしい小さな手だった。あたしの家族を殺めた手であり、何度も命を護ってくれた手でもあった。とても愛しい手だった。
 その手を、そっと頬擦りした。それから、手の甲に口付けをし、親指を口に含んだ。仄かに塩っぱい味がした。人さし指、中指、薬指、小指、と順番にくわえていった。
 霧香はその行為を、うっとりとした顔で見つめていた。
 右手にも全く同じことを施し、その後、手のひらにキスをした。ちょうど真ん中の窪みに舌を這わせると、霧香が小さな声を上げた。
 次に、手首の内側の血管に舌を這わせ、そのままそれを辿るようにゆっくりと腕の付け根まで滑らせていった。
 その勢いで首筋にキスをして、唇を重ねた。
 霧香のタンクトップに手を掛けて脱がせると、恥ずかしがって上半身を腕で隠すように覆った。
 霧香は完全にあたしに主導権を委ねたらしく、されるがままの受け身の態勢になっていた。
 肩を抱くようにしてベッドに押し倒した。触れ合った素肌同士が吸い付くようだった。手を握り合って首筋に顔を埋めて、しばらくその心地よい感触に浸った。
 「・・・霧香」
 耳許でそっと囁くように名前を呼んだ。そして、その耳たぶを噛んだ。
 顔を上げて、再び唇を重ねた。角度を変えて何回も触れるだけのキスをした。それから、唇を少し強く押し当てて、強引に舌を忍び込ませた。霧香の舌を絡め取ると、今度は僅かながらに返答があった。あたしは霧香が大胆に舌を使うようになるまで、唇を離さなかった。ひたすら舌を絡め続けた。
 息苦しさと興奮とで鼻の息が荒くなっているのが聞こえるが、それが自分のものなのか霧香のなのか判断ができなくなっていた。それとも、2人共かもしれない。
 舌の動きに満足し、やっとのことで唇を離すと、下になっている霧香の唇からは、溢れ出した唾液が顎を伝っていた。それを唇で拭っていき、そのまま首筋を辿り徐々に下方へ移っていった。
 「あっ・・・」
 ちょうど胸の尖端へ辿り着いたところで、霧香が声を出した。
 その先端部を口に含んだり舌で転がすと、霧香は快感をあらわにした。そのことにより、あたしの身体も感じてくる。
 充分に左右の胸を堪能して、更に下方を目指すと、ショートパンツに進路を阻まれた。
 体側を指でなぞり、ショートパンツに手を掛けた。
 「霧香・・・」
 言わなくても理解したらしく、霧香は腰を少し浮かせた。
 ショートパンツと下着を一遍に引き剥がして、あたしは霧香の股の間に身体を忍び込ませた。腕を霧香の膝の下にこじ入れ、持ち上げた。霧香は膝を立てて、股を開いているという態勢になっている。まだこの状況を楽しむという余裕はないらしく、霧香はきつく目をつぶっていた。
 あたしは霧香の膝頭にキスをした。股の内側を唇で伝っていき足の付け根に辿り着いたところで、霧香は足を閉じようとした。けれど、あたしの身体が挟まって閉じることはできない。
 霧香が力を抜いたのを見計らってから、匂いを胸一杯に吸い込んで、キスをした。
 左右に少し広げると、蜜が溢れ出てきた。あたしの部分も、同じ状態になっているだろうことは容易く想像できた。
 「んんっ・・・」
 舌で蜜を舐め取ると、霧香が湿った声を漏らした。
 あたしはわざとに音を立てるようにしてしゃぶり付いた。入口周辺を舐め、小陰唇を一枚ずつ口に含み入念に愛撫を施した。それに答えるように、霧香から蜜が溢れだしてくる。
 乱れた息づかいは聞こえるものの、声を押し殺しているらしく霧香は喘ぎ声を出そうとしないようだった。
 あたしは身体を起こして、霧香の蜜で濡れた口元を手で拭った。
 相変わらず霧香は目を閉ざしたままだった。
 「ねぇ、霧香。声、聞かせて」
 甘えた声になってしまった。いかにあたしがその声が聞きたいのか、思い知らされた気分になった。
 霧香は得に何の返事もしなかった。
 再び身体を屈めて、愛撫を始めた。
 今度は重点的にクリトリスを攻めた。軽く唇で挨拶してから舌でなめ上げると、霧香は声を漏らし身をよじらせた。
 いかせないように緩やかに愛撫を続けた。唇で挟んだり、吸い上げたり、舌先で突いたりと様々な刺激を与えた。
 吐息混じりに、少しずつ霧香が声を出し始めた。その声だけで、あたしは何の刺激を与えられなくても身体が感じている反応を示していた。
 すっかりと最初に見た時より変化していた。クリトリスも小陰唇も腫脹し切っている。
 そろそろいい頃だろうと判断し、あたしは上半身を起こして右手の中指を入口に当てた。
 「いい、霧香?」
 了承を問うと、ようやく霧香は目を開けて視線を合わせた。見たことのないような恍惚の表情を浮かべている。霧香がこんなに色気を持っていたことに驚いた。もっと乱れさせたいという欲望が沸き上がってくる。
 「・・・うん」
 肩で息をしながら霧香が小さく頷いた。
 けれど、挿入に抵抗があるのか身体に力が入っている。
 「大丈夫。痛くしないから、力抜いて」
 身体を重ねて、そっと耳許で囁いた。それから、頬に口付けをして微笑みかけた。
 霧香も照れたような笑みを浮かべた。そして、待っているというかのごとく、目を閉ざした。
 あたしはゆっくりと中指を沈めていった。力も抜けていたし、充分過ぎる程に濡れていたので、難なく入っていった。
 第2関節くらいまで挿入して、あたしは中指に神経を集中させて霧香の中を感じ取った。熱く湿った肉が柔らかく包んでくるような感じだった。
 霧香の表情を見ながら指を動かし始めた。押し込んだり指の腹で擦ったり技巧を凝らしてみるが、気持ち良さ気な表情を浮かべてはいるものの、反応は今ひとつだった。もう少し奥や左右ずらして攻めてみたりしたが、しっくりこない。
 折角乱れさせようと思ったのに、上手くいかない。
 膣内が感じにくい体質なのだろうか。それとも、単にまだ身体が開発されていないだけなのかもしれない。後者ならば、追々あたしが施していけばいいだけの話だ。
 指だけでの愛撫は諦めて、顔を霧香の股の間に埋め、唇と舌でクリトリスを刺激した。その間も指を使いながら。
 やはりこちらの方が反応が良かった。霧香は声を漏らして身体全体で快感を表してくる。
 吸い上げながら舌で転がし、一気に刺激を与えた。
 「あっ・・・やだ!ミレイユ・・・ミレイユ!!」
 息が荒くなってくるのと同調して、ヴァギナの収縮も著しくなってくる。緩めずに愛撫を続けると、遂に頂上に達した。その様が指に伝わってくる。霧香は痙攣を起こしたように身体を震わせていた。
 波が引いていくのを見届けてから、ゆっくりと指を引き抜いた。手の平までぐっしょりと霧香のもので濡れていた。
 今し方まで霧香の中にあった中指を自分の口にくわえた。霧香の味がした。
 意識が朦朧としているのか、虚ろな目をして霧香があたしを見ていた。うっすらと汗ばんだ額に、髪が張り付いている。
 身体を合わせて、霧香が呼吸を整えるのを待った。
 あたしも早く霧香と同じ場所に行きたかった。霧香の手に導かれて。
 首筋に顔を埋めて頬と頬を触れ合わせていると、ふと何かがそこに触れた気がした。
 身体を起こしてみると、その何かの正体はすぐに分かった。
 涙だった。霧香の目から涙がこぼれ落ちていた。
 あたしがそのことに気付くと、霧香が慌てて手で目を覆った。
 何故泣いているのか分からなかった。けれど、原因があたしにあることぐらいは察しが付いた。
 もしかすると、あたしとセックスしたことを後悔しているのだろうか・・・。
 「どうしたの?」
 訊かずにはいられなかった。
 霧香は首を大きく横に振った。そして、
 「分からない」
 と、言った。
 「分からないけど、ただ・・・」
 「ただ?」
 あたしは先を促した。
 「ただ、うれしいの」
 手の甲で涙を拭いながら、霧香が言った。
 「うれしい?セックスしたことが?」
 恥ずかしそうに霧香は頷き、
 「ミレイユと・・・ね」
 と、言葉を付け足した。霧香はあたしが思っていたよりもずっと繊細なのかもしれない、と思った。
 それから長いキスを交わした。
 「ねえ、霧香。今度はして・・・」
 「うん」
 身体を反転させて、霧香があたしの上になった。心地よい重みだった。
 あたしは感じるままに息を荒げ、聞かせるように喘ぎ声をあげた。
 唾液まみれになる程乳房を愛撫してから、霧香の手はゆっくりと下降していった。
 早く触れて欲しくて堪らなかった。それなのに霧香は、ちょうどカーブを描くところで手を止めた。
 焦らされているのかと思った。初心者の割に、技が使えるのかと。
 けれど、そうではなかった。
 「・・・どうしたら、いい?」
 「・・・・・」
 何故か、途中で水をさされるようなことをされても不快ではなかった。多分、霧香が素直だからだろう。気持ち良くないのに無闇矢鱈に愛撫してくるよりは断然いい。
 愛撫の仕方も伝授していかなくてはいけないようだった。しかし今は、余裕がなかった。いきたいのだ、早く。
 身体を起こして、ベッドのパイプ部に枕を挟んでクッションにして霧香を座らせた。そして、あたしはその霧香の股の間に背を向けて腰掛けた。霧香はただ、促されるままに行動した。
 「背中、痛くない?」
 霧香にもたれ掛かりながら訊いた。
 「うん。大丈夫」
 「じゃあ、右手貸して」
 霧香の右手を覆うように自分の右手を被せて、あたしは局部へ誘った。
 想像以上に濡れていた。
 今、手を重ねているから霧香もあたしと同じものを感じているはず。一体、どう思っただろうか。
 ゆっくりと2本の指をあたしの中へ導いていった。あたしと霧香の中指だ。
 霧香の指を押さえた。すると霧香の指を伝って、あたしに刺激がくる。それを何度も繰り替えしていると、あっという間に快感の波が押し寄せてきた。
 霧香が空いている左手を、あたしの乳房に回してきた。
 「ミレイユ・・・すごい・・・指が、痛い」
 あたしは指を締め付けていた。
 あたしの中で2人全く同じものを感じている。まるで中指を通じて一体化されたような不思議な感覚が、更にあたしを高揚させた。
 体温が一気に上昇していく。特に下腹部が熱くなり、骨盤が溶けてしまうのではないかと思えてくる。自分の喘ぎ声が誰か別の人のもののように遠くから聞こえてくるようだった。
 腰を浮き沈みさせて、更なる刺激を求めた。
 「霧香」
 後もう少しというところで名前を呼んだ。それに答えて霧香があたしの名を耳許で呼び返してくる。
 待ちに待った頂上に辿り着いた。その間にもあたしは何度か霧香の名前を口にした。
 しばらく口もきけず動けない状態になった。呼吸を整えて、少し落ち着いてから指を引き抜いた。
 上手く力が入らないままに、身体を動かして霧香と向き合って座った。
 霧香は自分の中指を舐めていた。何故かその仕種が、猫が自分の手を舐めているのを連想させた。この後、霧香は自分の顔を擦るのだろうか・・・。
 残念ながら顔は擦ることなく、霧香の手はあたしの手に伸びてきた。手を握ると口元に持っていき、指に付いているあたしが分泌した体液を舌で拭っていった。
 「どう?」
 あたしは訊いた。けれど、そう訊いていながら何に対しての「どう」なのか、自分でも分かっていなかった。味に対してなのか。あたしの身体に就いてなのか。それとも、セックスそのものに関してか。
 様々な意味に取れる分、返答が楽しみでもあった。
 「うん。おいしい」
 素直に躊躇なく答えたので、逆にあたしの方が気恥ずかしくなった。
 羞恥を悟られないように、あたしは立ち上がってベッドから降りた。
 「シャワー浴びよう」
 「え?」
 霧香はこんなところで、戸惑いを見せた。
 「一緒にシャワー浴びるの、嫌なの?」
 「ううん。そんなこと、ない・・・」
 それから2人でシャワーを浴び、汗と唾液やらでベタベタになっていた身体を流した。
 あたしは霧香の身体の隅々まで磨いた。もちろん、霧香にも磨いてもらった。磨かせた、と言った方が近かったが。
 明るい場所で改めて霧香の裸体を見て、無駄な肉の付いていないしなやかな身体だと思った。
 その後、裸のままベッドに入った。
 あたしは再び霧香の身体中を触りたくした。ペッティングというよりも、本当にただ触るといった感じで。
 霧香は時々くすぐたそうに笑ったりしていた。
 結局、どちらが先に眠ったのか定かではなかった。愛撫の最中にあたしが寝てしまったのか。それとも、眠っている霧香を愛撫し続けていたのか。



 「おはよう」
 声を掛けると、同じ響きで同じ言葉が返ってきた。
 霧香を抱き締めると温かい体温と心地よい素肌の感触に眠気が襲ってきた。
 あたしは目を閉じた。
 穏やかで満ち足りた朝。
 霧香がいれば毎日こんな朝を迎えることができるだろう。



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最後まで目を通してくれた人。応援して下さった方。
本当にありがとうございました。
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次は、そうですね。ちょっと長い話(多分)を書こうかな・・・。
その前に、またギャグを書くかも。