ノワール劇場 バスがくるまで2



 都会のとある一角にミレイユと霧香がよく利用するバス停があった。


 「いつもここのバスは遅れるわねぇ」
 ミレイユは混雑している車道を眺めてバスを探しながら愚痴った。定時を過ぎているのに、まだバスの影も形も見えない。
 「ねえ、ミレイユ。ベンチで座って待ってようよ」
 霧香が青いベンチに駆け寄っていき、座るまでミレイユは見届けた。ベンチはきちんと修理されていたようで、霧香が座ってもびくともしなかった。
 まだ当分バスがくる様子がなかったのでミレイユもベンチに座って待つことにし、霧香の隣に腰を下ろした。
 「ふ〜、足が痛いのう」
 杖を付いたブレフォールが通りかかった。 ベンチに座っている2人の前に立ち止まり、これ見よがしに膝を摩っている。
 「どうぞ。座って下さい」
 霧香がその様子を見て、立ち上がりベンチを譲った。
 「ほほう、若いのに感心な子じゃのう」
 見て見ぬ振りをしていたミレイユに冷ややかな視線を向け、霧香には感謝しながらブレフォ−ルはベンチに座った。
 「よいしょ」
 そのブレフォールの膝の上に座る霧香。
 「ちょ、ちょっとあんた!どこに座ってるのよ!!」
 その様子を見たミレイユは、慌てて霧香を自分の膝の上に座らせた。
 「ふぉっふぉっふぉ。若いもんはええの〜。さて、年寄りは退散するとするか」
 そう言ってブレフォールは立ち上がり、
 「お幸せにな」
 という言葉を残して去っていった。
 何のことを言われているのか分からなかったミレイユだが、
 「カップルだ!」
 と、子供に指差され、ようやく自分の行動がおかしいことに気が付いた。
 「ちょっと霧香!どこ座ってるのよ!!」
 慌てて霧香を立たせた。
 「だって、ミレイユが・・・」
 自分に非があることを認めたくないミレイユは、霧香をにらみ付けてその先の言葉を遮った。
 「ぶう・・・」
 言い返せないので霧香は口を尖らせてむくれていた。
 突然ミレイユは悪寒が走り、反射的にバス停の陰に身を潜めた。
 その直後、陰でビクビクしているミレイユとは対照的な悠然とした態度のシルヴァーナが現れた。
 「確かこの辺りからミレイユの匂いがしたと思ったのだが・・・」
 辺りを見回すシルヴァーナの目に、取り残されてぼうっと突っ立ってる霧香が映った。
 おもむろに近付いていきシルヴァーナは霧香の匂いを嗅いだ。すると、顔をしかめ不機嫌な表情を浮かべた。
 もう一度辺りを見回しミレイユの姿がないことを確認すると、シルヴァーナは去っていった。
 「ふ〜、危なかったわ」
 シルヴァーナの姿が見えなくなるのを見計らってから、ミレイユはバス停の陰から出てきた。
 「ねえ、ミレイユ。シルヴァーナとは、どういう関係なの?」
 「どういうって・・・。前にも言ったじゃない。幼い頃に会ったことがあるだけよ」
 「ふ〜ん」
 「な、何よ、その目は」
 霧香は猜疑の目でミレイユを見ていた。
 「じゃあ、どうして隠れたりしたの?」
 「それは・・・あの人がちょっと・・・いえ、かなり・・・滅茶苦茶恐いからよ。ただ、それだけよ」
 あたふたとミレイユは額に汗を浮かべながら説明した。それで信じろと言うのが到底無理な話だ。
 「本当に?」
 信じていない、という口調で霧香が訊いた。
 「ほ、本当よ。どうしてあたしがあんたに嘘を付かなきゃいけないのよ」
 「うん・・・」
 頷きながらも、まだ納得がいっていない様子の霧香。
 「本当に本当、だよね?」
 「だから本当だって言ってるじゃない!」
 中々信用してもらえないので、段々ミレイユの口調がきつくなってきた。
 「本当に本当に本当、だよね?」
 「本当に本当に本当です!!」
 投げやりになるミレイユ。
 「本当に本当に本当に本当、だよね?」
 「・・・・だ〜〜〜〜〜〜!!もう、しっつこいわねぇ!!本当だって言ってるでしょう!アレはただ勝手に書かれただけのことよ。どっかのバカがでっちあげた話よ!!だって、だってあたしは霧香だけが好きなんだから〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
 再びどさくさに紛れて告白してしまったミレイユ。自分の言葉に気付くとゆでダコのように顔を赤く染めた。
 「何なのよ、このSSは!!あたしの告白コーナーかっちゅーの!!」
 逆ギレするミレイユ。筆者に怒りを向けられても、そんなこと知ったこっちゃない。
 「そうよ!!どうしてあたしばっかりなのよ!次は霧香にして欲しいものだわ・・・っていうか霧香にして。霧香の告白、聞かせて!」
 ・・・・・・・。
 ぶっぶー!
 「あっ、ミレイユ。バスが来たよ」
 ミレイユは空に向かって叫んでいた。
 「お願いよ〜!!」


 今日もまた賑やかにバスを待つミレイユと霧香であった。




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