マメの手の処女たち
「どうしたの?」
町中を歩いていて霧香が急に立ち止まったので、ミレイユは声を掛けた。
霧香の視線の先には、ゲームセンターがあった。そして、その中にあるひとつのゲームを食い入るように見つめていた。
「あんた、あれがやりたいの?」
「うん」
霧香は遠慮がちに頷いて、ミレイユの瞳をじっと見つめた。
お願いオーラに気圧されたミレイユは、
「じゃあ、ちょっとだけよ」
と、仕方なさそうに言った。
ミレイユは知っていた。こういう風に承諾した後は、霧香が破顔の表情を見せてくれるということを。
すっかり満足したミレイユは、霧香が見つめていたゲームに向かった。それは、太鼓の達人3という名のゲームだった。
「何、これ?どうするの?」
「そんなに難しくはないよ。これはね・・・」
霧香は簡単にゲームの説明をミレイユにした。
ミレイユは説明そっちのけで、珍しく意気揚々と喋る霧香に見入っていた。
「じゃあ、私は和田かつで」
霧香はそう言って、向かって右側の太鼓の前に立った。
「ワダカツ?」
「うん。こっちの太鼓は和田かつって言うの。ミレイユの方は、和田どんね」
「そう。太鼓に名前が付いているのね」
「他にもいっぱいキャラクターがいるんだよ。どん子や和田イヌ、バチお先生とかね。バチお先生はね、2人なのにバチお先生ってひとつの名前なんだよ」
「何だか、それってあたし達みたいね」
「そうだね」
そう言って2人は笑い合った。
お金を入れて、ゲームをスタートした。
「むずかしいコースでっと」
「えっ??ちょっと待って。いきなりむずかしいでやるの!?」
「大丈夫。ミレイユなら」
全く根拠がないのに、自分がむずかしいコースをやりたいからそう言った霧香に、
「そうね」
と、これまた根拠なく納得するミレイユ。
「曲は何がいいかなぁ」
霧香がカッを叩き曲名を見ていきながら言った。
「じゃあ、コッペリアの柩で」
「ミレイユ。ないよ、それは」
「そう。じゃあ、canta per me」
「・・・もっと、ないってば」
「どうしてノワールはないの?セラムンもエヴァもあるじゃない」
「そうだけど・・・」
「うさぎにミサトよ!あたしはミレイユだっちゅーの!!」
「そ、そんなこと言われても・・・。ほら、ノワールは放送地域が限られていたし」
などと話している内に制限時間が過ぎ、最高難度の『風雲!バチお先生』が選曲された。
「何よ、これ!こんなの叩ける訳ないじゃない!!」
叫びながら必死にバチを振るい、和田どんを叩くミレイユ。
霧香も無言ながら懸命に和田かつにバチを振るっている。
結果は・・・2人ともノルマクリアならず散々なものだった。
「ねぇ、霧香。もう1回やらない?」
ミレイユには、引っ掛かっていることがあった。自分と霧香の結果を見比べている。
「うん。いいよ」
この後霧香は気軽に頷いてしまったことを激しく後悔する羽目になった。
「ミレイユぅ〜。まだやるのぉ?」
優に30回を越える程、2人は太鼓を叩いていた。もう腕がつりかけている。
「もちろんよ!あんたに勝つまではね!!」
ミレイユは極度の負けず嫌いであった。
次の日、2人は筋肉痛になり、手にはマメができていた。
あそれ〜 どどんがどん♪
完
次回予告
地は哀しみに満ちて
人はただ太鼓を叩く
天は何も語らない
日々のマメ(嘘)
太鼓の達人3はnamcoの業務用ゲームです。
知らない人、ごめんなさい。
期間限定の作品でしたが、好評(?)につき飾っておくことにしました。