アイマスのリドル 〜プロローグ〜




 私は高木順一朗。765プロダクションの社長だ。
 本日当事務所を代表する優秀なアイドル候補生1名を「事務所間交流」として 961プロダクションに送ることを決定した。
「ティンときた!」



「任務を説明しよう。内容はもちろん暗殺だ。ターゲットはとある事情もちのアイドル候補生。 ステージは961プロダクション。衣装は支給しない。君はこれから事務所を移籍し、 961プロ内のターゲットを誰よりも早く殺す。ターゲットは1名だが、 それ以外のアイドル候補生は全員暗殺者(アサシン)だ。理解したかな?」
 社長室で一通りの説明をした高木に、呼び出された少女はただ黙って頷いた。



「事務所を移るって本当ですか?」
「聞きましたよ。事務所代表の任務なんてすごい!」
「ウワサの961プロですよね」
 暗殺の訓練をしていた765プロの同僚たちが少女に次々と声を掛けてくる。 少女は関心がないのか返事もしなければ顔色ひとつ変えることもしない。
 アイドル事務所である961プロダクションは平素存在しないが、特別な時期にだけ開設される。
「移ったってすぐに戻ってくることになりますよ。さくっと任務を果たして」
「前回の『961プロ』では2週間ももたなかったらしいじゃないですか」
「765プロのアイドルが他事務所の暗殺者に遅れをとる訳ないですもん。 それにあなたが行くんだから終わったようなもんですよ」
「でもさー、たかがアイドルひとりを暗殺しなくちゃならない事情ってどんなんだろ」
 それまで無言だった少女がようやく口を開く。
「それは関係ない」
 同時に手にしていたナイフを投げる。それは人型をした標的の頭部真ん中に造作もなく突き刺さった。



 一方、その頃961プロダクションでは……。
「きゃっ」
 どんがらがっしゃーん!
 左右の側頭部それぞれにリボンを着けた少女が事務所の廊下で盛大に転んでいた。
「大丈夫か、春香?」
 座り込んでひざを擦っている春香を、メガネをかけた男性が心配そうに覗き込む。
「すみません、プロデューサーさん。大丈夫です。ちょっと転んだだけですから」
「ちょ、気を付けるんだぞ。段差もないところで」
「よく転んじゃうんですよ。てへへ」
 痛そうな仕草はしているものの、春香の顔は溢れんばかりの笑顔だった。
「楽しそうだな」
「そりゃもう楽しいですよ。私はとある事情もちであんまりレッスンに行けてないので。 こんな素敵な事務所に移籍できて嬉しいんですよ」
「そうか、それじゃあ早く同僚が揃うといいな」
「はいっ。わくわくします。みんなとレッスンして友達になって人生エンジョイするんです。 そして必ずデビューしてみせます!」
「そんなに力まなくても普通に頑張ればデビューできるよ。それとも春香は歌が苦手かな?」
「歌は得意ですよ。私、マーメイ♪」
 試しにと春香はアカペラで歌を口ずさんだ。
「………」
「………」
「じゃあこれからダンスや歌もしっかり頑張ろうな」
「……はい」



「えへへ、一番最初に着いちゃった」
 誰もいない閑散とした事務所で、春香は嬉しそうに961プロダクション所属アイドルの 写真やプロフィールが掲載された名簿を一人ひとり覚えていくように読み上げていく。
「如月千早ちゃん。水瀬伊織ちゃん。菊地真……君」
 男性アイドルもいるんだ、と春香は顔写真を見て驚きと納得をした。
 更に続けていく。
「星井美希ちゃん。萩原雪歩ちゃん。高槻やよいちゃん。三浦あずささん。我那覇響ちゃん。 秋月律子さん。音無小鳥さん……2×才!?この人もアイドル?」
 年齢的に無理が……。うん、まぁ可愛らしい人だけど……。
 気を取り直して続けていく。
「四条貴音さん。双海亜美ちゃん」
 そして最後に……。
「天海春香です」
 まるで目前の人に自己紹介をするように元気いっぱいな声で名を告げ、そして高らかに宣言する。
「必ずデビューしますよ!」



 765プロでは出発を前に、再び少女が高木社長に呼び出されていた。
「如月千早君。出発にあたり特に注意することはない。おおっと違った。ひとつだけあったぞ。 君は勘違いしているかもしれないが、もっとも優秀なアイドル候補を移籍させるというのは本当だ」
 千早は社長の言葉に一瞬反応するものの、目も合わせようとしない。
 んんっを咳払いをしてから社長は言葉を続ける。
「血筋がいいとか能力が高いとか性質が向いているから選んだのだぞ。 決して断じて私の直感で選んだわけではないぞ」
「そういうの、どうでもいいです」
「殺して生きるか、生かして死ぬか。好きな方を選びたまえ」
 ようやく千早は顔を上げて社長を見た。
「それとも生かして生きてみるかな?」
 千早は眉をしかめる。
「……意味が分からないんですが」



 千早と春香の出会いまで、あと少し。
 







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最後まで目を通して頂きありがとうございます。
プロローグは作ってみたものの本編は書くかは分かりません。
時間と労力に余裕があれば書く日がくるかも?
次はサイコパスに戻ります。